難聴とは
難聴とは、外耳で集めた音が鼓膜につたわり、鼓膜に接した中耳の耳小骨群を通して内耳に伝わり、内耳で音波を電気信号にかえて神経によって脳に伝えて音や言葉として認識するという一連の過程のどこかに障害がおこって、聞こえが低下している状態をいいます。 原因には生まれつきのものと、疾患や外傷などによる後天的なものがあり、難聴の程度も軽く聞こえにくいものからほとんど聞こえないものまであります。
難聴の原因
外耳疾患による難聴
外耳道炎などの疾患、耳垢や外耳道異物などによって物理的に外耳道が塞がれてしまった場合、鼓膜に音が伝わりにくくなり、難聴をおこすことがあります。
中耳疾患による難聴
耳管狭窄症(耳管カタル・中耳カタル)
カタルとは、粘膜の炎症によって粘液が滲出するタイプの炎症性疾患です。耳管や中耳の炎症によって耳管が塞がってしまうと中耳内部の圧力が下がることで耳閉感があらわれ、音が聞こえにくくなります。
急性中耳炎
鼻の奥から耳管を通して細菌が侵入し、感染して中耳が炎症をおこしたものが急性中耳炎です。中耳の鼓室の膿がたまってしまうと音の伝わりが悪くなり、聞こえにくくなるとともに、強い痛みを感じます。
滲出性中耳炎
耳管狭窄症では、粘膜から粘液が滲出します。この状態が長期間続くことで、中耳の鼓室に滲出液がたまってしまった状態が滲出性中耳炎です。急性中耳炎のように、激しい痛みなどの症状がなく、難聴が主な症状となります。お子様の難聴のほとんどのケースがこの滲出性中耳炎によるものです。お子様は、耳が聞こえなくても痛みなどがない限りあまり症状を訴えません。呼んでも返事をしない、聞き返すことが多いなどの症状に周りの方が気づいてあげて、早く受診することが大切です。また、どんな場合も中耳炎はしっかり治療しきることが大切です。慢性中耳炎から聴力障害をおこすようなことがないよう、医師の指示をまもって許可がでるまで治療を続けてください。
慢性中耳炎
慢性的に中耳で炎症がおこっている状態で、化膿性の耳だれを繰り返し、鼓膜に穴があいて塞がらなくなってしまうこともあります。そのため、難聴の度合いも悪化していき、また、中耳が外気に晒されることで、感染を繰り返しやすくなります。炎症が内耳にまで及ぶと、内耳性難聴をおこすことや平衡感覚に障害が生じることもあります。
耳硬化症
耳小骨は、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨で構成されており、鼓膜の振動を内耳に伝える役割を果たしています。このうちアブミ骨がだんだん硬化してしまい動きにくくなることで、内耳に音が伝わらなくなってしまうのが耳硬化症です。以前は欧米人に多い疾患でしたが、近年は日本人にも増えてきています。
内耳疾患による難聴
耳小骨から伝えられた音は内耳の蝸牛という部分に伝わり、その内部で電気信号に変換され、神経によって脳へと伝わります。また、内耳には平衡感覚をつかさどる半規管や耳石器などがあり、内耳の障害では難聴、めまい、耳鳴りなどの症状があらわれます。
メニエール病
リンパ液の分泌が過剰になるために、内耳が浮腫をおこして、難聴、耳鳴り、耳閉感などをともなっためまいの発作が繰り返し起こるのがメニエール病です。最初は発作の前から発作中の難聴だったのがだんだん悪化していくこともあります。
突発性難聴
突然難聴の症状があらわれる疾患で、同時にめまい、耳鳴りをともなうこともあります。はっきりした原因は不明ですが、内耳血管の血流障害やウイルス感染などが原因と考えられています。早期に治療開始することで完治しやすい疾患です。
ストマイ難聴
ストレプトマイシン、カナマイシンといった抗生剤は結核の特効薬ですが、これらの薬剤の使用中は内耳に対する毒性から難聴、めまいといった症状が起こりやすくなります。そのためこれらの薬剤による治療中は定期的に聴力検査を受ける必要があります。
騒音性難聴
大きな音のする環境下での仕事、ロックのコンサート、ヘッドホンの長時間使用などで音による内耳への刺激が過剰な状態となると、音を感じる細胞が損傷して難聴をおこすことがあります。爆発事件など、たった1度の刺激でも起こることがあります。
老人性難聴
加齢によって、内耳の器官や神経、血管の老化がすすむと、だんだんと聞こえが悪くなり、難聴が進行します。高齢になると誰でもある程度難聴になりますが、その程度は人によって異なります。加齢による難聴の特徴は高音部から聞こえにくくなることで、同時にジー、ザーという耳鳴りがあらわれることもあります。
そのほかの疾患
高血圧や糖尿病といった生活習慣病、自己免疫疾患、梅毒、ストレスなどによって内耳性難聴が発症することもあります。
神経性難聴
電気信号に換えられた音は、内耳内の蝸牛から出ている蝸牛神経から脳幹へ、脳幹から一次聴覚野へと伝送され音として認識されます。この経路のどこかに障害がおこって生じる難聴を神経性難聴といいます。
また、この音の電気信号を伝える神経を被覆している鞘の部分に良性の腫瘍ができることがあります。この腫瘍はめまいや難聴の症状をともないながら、だんだんと大きくなっていきます。腫瘍が大きくなってからでは脳神経外科による手術が必要になることもありますので、早期のうちに手術をおこなうことが勧められます。当院では聴神経腫瘍が疑われる場合は、連携するMRI施設のある医療機関を紹介しております。
難聴の種類
伝音性難聴(でんおんせいなんちょう)
外耳から中耳にかけては、音を拾い集めて増幅し、内耳へと伝える機能をつかさどっています。この伝送がうまく働かない、増幅ができないといったことから起こる難聴が伝音性難聴で、薬物や手術などで治療可能です。伝音性難聴をおこす主な疾患は、外耳炎、中耳炎、硬膜穿孔、耳垢塞栓などです。
感音性難聴(かんおんせいなんちょう)
内耳の蝸牛の内側にある有毛細胞という神経細胞が伝わってきた音波によって刺激され音波が電流へと変換され、蝸牛神経によって脳に伝わります。この音波から電流への変換過程に障害があって起こる難聴が感音性難聴で、治療の難しい分野です。主な疾患として、突発性難聴、加齢性難聴、騒音性難聴などがあります。
混合性難聴(こんごうせいなんちょう)
中には伝音性難聴と感音性難聴の両方があらわれることもあります。この難聴は患者様それぞれであらわれる症状が異なりますので、それにあわせた治療を行います。
難聴の治療
外耳・中耳性疾患による難聴の治療
難聴の原因が、外耳や中耳の疾患にある場合は、それぞれの疾患にあわせた適切な治療を行うことで、聴力の回復を望むことができます。急性中耳炎、耳管狭窄症、滲出性中耳炎といった疾患の場合はのどや鼻の感染症などが原因となっていることが多く、それらの治療を同時に行います。一方、慢性中耳炎や耳硬化症などのケースでは、手術による治療を検討することになります。お子様の扁桃肥大、アデノイド肥大なども程度によって手術をお勧めすることがあります。
内耳性難聴・神経性難聴の治療
難聴の原因が内耳や聴覚神経にある場合、まずは薬物療法によって治療を試みますが、重度の内耳性難聴の場合は、内耳に電極を埋め込んで伝わってくる音にあわせて聴覚神経を刺激する人工内耳という治療法をお勧めする場合があります。アメリカで開発されたこの治療法は1980年に日本でも第1例が行われ、その後普及してきました。
補聴器の使用と調整
どうしても根本的な治療では聞こえの回復が難しいケースがあります。その場合、補助的手段として、補聴器の使用をお勧めしております。補聴器は個々人の状態にあわせて製作し、さらに調整をすすめる必要があります。それぞれの方にあわせた補聴器を使用することで、発症前の聴力を取り戻すことはできませんが、日常会話をスムーズに行うことができたり、テレビのボリュームを上げずに聞き取ることができたりするようになり、日常生活の活発化も期待できます。
当院の医師は補聴器相談医の資格をもっており、また補聴器専門の業者も月に何日か常駐しておりますので、ご予約でご来院していただくことにより、ご自身にあった補聴器の製作から調整、メンテナンスまでスムーズに行うことができます。
加齢性難聴は40代から?
加齢性難聴は、40歳代から始まっています。内耳で、音波を電気信号に換える働きをしている有毛細胞は年齢とともに損傷していきます。最初は高音部からはじまりますが、高音部の難聴は自覚しにくいため、気づくのが遅れることがあります。難聴は年月とともに段々進行してきて可聴領域全体が損傷してきます。これは老化現象で根本的な治療法はありませんが、加齢以外の難聴要因を避けることで、進行を遅らせることは可能です。
しかし、有毛細胞の損傷以外にも、神経や血管の老化、認知機能の低下など、難聴には様々な原因が関係していますので、患者様それぞれにあわせて補聴器の使用や人工内耳手術などの治療を適切に行っていく必要があります。
低音障害型感音難聴とは
低音障害型感音難聴は、突然低音部だけ聞こえが悪くなる難聴で、めまいなどの平衡感覚の症状はともないません。内耳には、前庭部と蝸牛内部にリンパ液があり、その双方のリンパ液が増えるとメニエール病となって、平衡感覚異常と、難聴があらわれます。ところが、低音障害型感音難聴は蝸牛内だけでリンパ液が増えるため、難聴だけが症状としてあらわれます。そのため「蝸牛型メニエール病」とも呼ばれることがあり、メニエール病と同様30~50代の女性に発症しやすい疾患で、難聴発作を繰り返す特徴があります。聴力は回復しやすく、治療は発作のときのみで大丈夫ですが、ストレスなどが引き金となることが多く、日常生活に注意する必要があります。